ショッピングモールを2時間もうろうろした結果、
カフェの拠点に戻ってきてしまった。私の阿呆。
はぐれた香坂にすまんと詫び、皆の様子を確かめて…
想像すらしていなかった光景に目を見開いた。
「畜生、しくじった…! 応援とか性に合わねェよ畜生…」
…江間。
あれは江間なのか…?
別に顔が潰れているわけでもないのに、
__壁に寄りかかって傷口へ蟲を這わす男
それを江間だと認識するのに時間と覚悟が要った。
嘘だ。
嘘だ。
前の夜、あれだけ自信たっぷりに私をからかった奴が。
私より強いはずの奴が。
一歩、近づこうとして足を踏み出し。
からりと、何か崩れる音が胸に響いた。
「…おい江間、この大莫迦がァ!!!」
「っせェな、分かってんだよンなこた!」
脊髄反射なのか拒絶反応なのか、とにかく声が直ぐに返ってくる。
安堵と共に沸く怒りで頭がかっとなる。
相手が怪我人だなんてことも忘れ、思わず江間の襟首を掴み…
「…分かっとう?どこがや!ええか、お互い死んでもうたらこうやって怒鳴られへんのや!
今度こそ分かっとき!!」
…分かってない。
____分かってない分かってない分かってない分かってない!!!!
嗚呼。
そうか。
私は江間に期待していたんだ。
江間は私より強いはずだから。
強くて、軽口で、優しくて、無神経で
色んなものが、私ではかなわない奴だから。
私が追いかけて背伸びをするぐらいが丁度好いと思っていたから。
最後まで両の足で立っていて欲しいと、
勝手に期待していたんだ。
自分の為に。
情けなさと悔しさに言葉をぐっと切り、唇を噛んで江間の反応を待った。
神風と雪白がじっとこちらを見ている。
この二人はお互いに違う意味で人に気を使う奴らだ。
心配をかけたく、ない。余計なものを見せて不安を煽りたく、ない。
「…ハッ、金も出ねェ戦争で誰が死ぬかよ! 痛ェっての、離せ! ―――死なねェよ!」
逡巡した刹那、江間の声が返る。
生気のある、まだ何も諦めていない声だった。
金も出ない…か。
よく知らないが、こいつは私よりもよほどこういう修羅場を切り抜けて此処に居るんだろう。
悔しくて仕方ないんだろう、今の自分が。
___大丈夫だ
何故かそう思った。
怒りも期待も安心も、どこか遠くへと霧散していく。
「……、元気やないの。それでええわ。」
そっと江間の襟首から手を離し、
心配そうに見ていた神風に視線を送る。
「ほな、もう一丁行ってくる。…騒いで悪かったわ。」
店長と雪白の後を追って駆けていく神風を見送り、バチンと自分の両頬を叩くように挟む。
が…
痺れを切らした宇気比が戦闘準備をしているのを見、
胸がざわついた。
それでもそんなことは伝えられない。
迷いは隙を生み、隙は命を奪う。
いつもの、いつもの表情を作れ私…!
「宇気比!大丈夫かお前… いや、止めん。
無理はええけど無茶はすな。 …な。」
胸元のプレートを軽く握り締め、祈るように、聞こえないように
___無事を。
小さく呟いた。
「最後…ジジイのツラみんなの分までぶん殴ってきますよっ。坤さん行きましょうー?」
「おお、行くで香坂。あのけったいな爺さんに赤っ恥かかしたるわ。」
高揚も、悲鳴も、狂気も、落胆も、まだ続く。
今はただ信じて前に進むしかない。
1991年9月27日生 16歳
ゾンビハンター×月のエアライダー
高校1年9組
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earthbound
━━ a. 地球に向かっている; 地表を離れられない[に限られた]; 世俗的な; 平凡な, 想像力のない.
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