3/29 交換

（カフェにて。更衣室のロッカーを何度か開け閉めし、暫し悩んでいる）



んー…。

「…よし。」


小さく一声呟いて、更衣室のドアを開けた。
メイド服姿が皆に見つからないように、こっそりと。

誰も居ない厨房へ出て、近くに居た真田を手招きで呼び寄せる。


いつ見ても好奇心一杯の顔が近づいてくる。
別に内緒の話ではないけれど、冷蔵庫に隠れるように二人で話を始めた。


「あの…こないだはこれ、有難う。」


左手を上げて見せる。
メイド服の袖からちらりとのぞくエメラルドの色。


それを見た途端、真田の顔がぱっと輝いた。


「んーんー。なんか余計なお世話かなって思ったんだけどさ♪」



余計なって…

そんなことない、と言おうとしたところで間髪入れずに



「たまにみて帰りを待ってる人がいるって思い出すともう１つがんばれる気がするんだ♪」




…あ、そっか…。




皆、誰かを待ってて。

皆、誰かを待たせてる。




すとんと、言葉が臓腑に落ちる。

素直に渡せそうな気がした。



「うん。
…ちょっと待ってて」



更衣室のロッカーをもう一度開けて、
ハンガーにかけておいたものを手に取る。




＿＿＿お願いだ、守ってあげて




それは目の覚めるような明るい空の色に、ほんの少しの夕焼けが入った茜色。
元町の古着屋で一目惚れして買ったスカーフ。

カポエラを踊る時も、イグニッションする時もいつも巻いていた。





他に、人にあげてよさそうなものならいくらも持ってる筈なのに

何故か

使い古したこれをあげたくなった





プレゼントじゃなくて

お守りなのだから。