「あの後、あんたは直ぐ行ってもうたから分からんと思うけどな…」
元、と頭につけたほうが良いであろう自分の部屋に荷物を置いた後、一階の食堂に入る。
母が色々と察した顔で冷たい麦茶を淹れてくれていた。
黙って麦茶を一口飲み下し、問わず語りに乗る。
「二人で帰ってきたやろ、夕方。」
うん、と頷いて続きを待ったが、母はそこで言葉を止めたらしい。
私が何か言うのを待っているように。
「…あんたの話とぬいの話が、噛み合わんの。
ほんまは何があったん?」
「え…?」
噛み合わない。
母は何を言っているんだろう。
ぬいは何を言ったのだろう。
「あんたの話も俄かには信じられんかったけどな…」
母は小さく溜息をつき、ぬいが話したという一部始終を聞かせてくれた。
「二人で紫刻館の麓あたりまで行ってんやろ。
そんでチーズケーキ買うて、帰り道に公園寄ったと」
そこまでは私の話と合う。
肯定の意味で頷いた。
「で…天気が良かったから眠くなってもうたんやって、あの子。
おかしやろ、あの日はずっと曇っとってんやんか。」
……。
ひゅるり。
さっきから何度も体をすり抜ける軽い風が、また吹いた。
「怖い夢いっぱい見て目え覚めたら、お姉ちゃんが怖い顔してたって言いよるんよ」
「夢?それってあたしが喋ったような中身の夢か?」
「そや、あの子はあんたが喋ったことを夢やと思てる」
一つの言葉が頭の中を駆け巡った。
世界結界。
超常の力や出来事が目の前で否定される、矛盾の塊。
今しがた目の当たりにした冷たい空気を思い出し、思わず声が荒くなる。
「でも…夢て思てんならあんな風にならんやん!」
「続きがあんねん。」
続き、と聞いて体がぴくりと反応した。
この予感はきっと当たる。
「…目を覚ましてからな、お姉ちゃんに酷いことを沢山言われた、
ずっと大嫌いだったとか、二度と顔を見せるなとか…。」
頭がぐらりと揺れそうになる。
ぬいの為と嘯きながら刃にしてしまった沢山の事実、言葉を他人から突きつけられる痛み。
それも夢と思っていてくれれば、なんて甘い考えを一瞬でも持った自分が腹立たしい。
人一人の心を閉ざして
私の心を縛り付けて
それで世界を守ったつもりなのか?
こんなものが
守るべき世界の姿なのか?
忘却期なんて…
でも
これが能力者として生きるということなら
今度こそ全てを捨てられるよ
鉄火場にしか生きられないわけじゃない
幸せになりたいと思うことさえある
誰かが笑っているところを見るのは嬉しい
それが大好きな人たちなら尚更で
だから
一番近しい人に
ぬいに
否定されることから目を逸らしてはいけないよ
仕方ないじゃないか
世界はそういう風に出来ているんだから。
小さく微笑んだ。
嘘や誤魔化しなどでなく、心から。
1991年9月27日生 16歳
ゾンビハンター×月のエアライダー
高校1年9組
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earthbound
━━ a. 地球に向かっている; 地表を離れられない[に限られた]; 世俗的な; 平凡な, 想像力のない.
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