「ぬい。」
もう一度扉を叩き、不安そうに下から見上げる母の視線に気づく。
小さく頷く姿に、ぬいが今この部屋に居るのだと理解するのは直ぐで。
「開けるで。」
三度目。
返事を聞かずにドアを開けた。
ひゅるり。
空っぽの部屋を開けたときに似た、
軽い風が体の両脇を通り抜ける。
違和感とも呼べるそれをやりすごし、
こちらに背を向けて座っている
同じ顔の妹に声を掛けた。
「ぬい。ただいま。」
「どちらさん?」
久しぶりに聞いた同じ声は
記憶の中にあった細く頼りないそれでなく
はっきりと
私の何かを否定するような響きを持っていた。
「どちらさんて…冗談きついわ。久しぶりに帰って来たのに」
出来るだけ、あの嫌な記憶からは遠ざかって話をしようとしたのがいけなかったのだろうか。
能力に目覚めた私と違い、怖い思いをしたのだから当然といえば当然だ。
きっと謝ったほうがいい。
「ごめんな、その…去年」
「冗談きついんはお姉ちゃんの方やろ、白々しい」
きっぱりと。
はっきりと。
取り付く島も無いというのはこういうことを指すのだろう。
記憶違いでもしたのだろうかと疑うくらい
今までのぬいとはかけ離れた振る舞いに
哀しさや怒りよりも
不思議な感覚が湧いて仕方が無かった。
「もう戻って来うへんのとちゃうかったっけ」
「…せやし、捨てたん?」
「そうや。要らんやろ」
短い会話。
一度も目を合わせていない。
それでもお姉ちゃんと呼んでもらえたことは嬉しくて
「…今日泊まるわ。皆でご飯食べ行くから、お父さん帰る前に着替えときね」
ここにいるよ、と。それだけ伝えてそっと部屋の扉を閉めた。
ただいま、ぬい。
1991年9月27日生 16歳
ゾンビハンター×月のエアライダー
高校1年9組
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earthbound
━━ a. 地球に向かっている; 地表を離れられない[に限られた]; 世俗的な; 平凡な, 想像力のない.
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