4/20 一振り

江間がくれたのは苛立ちと焦燥と


ほんの少しの空元気。

店長と、あるいは一人で。

馬鹿みたいに放課後すぐから深夜までGTに潜り、朝まで死んだように眠る日々が続いて
やっと人並みの睡眠と食欲が戻ってきたと思えるようになった。



食わなきゃ死ぬし寝なけりゃ死ぬ。

まるで敵の前で倒れることを拒むように。




本当に元に戻ったかどうかは怪しいけれど、
前よりはマシだと言い聞かせて。


マシだと思えばマシになる、具合が悪いと思えば悪くなる。


世界は単純だから。


そうするとほら、
足が遠のきがちだった場所にも顔を出そうと思える。

今日ぐらいからはカフェの連中を連れてGTへ行こう。
そう思って足を伸ばした。



その道すがら





「たーーーらららららっらっ♪」







……。

鬱陶しいのが来た。



ちゃりちゃりちゃりちゃり、軽快に響く鍵音と一緒に、耳を抜ける鼻歌。






うるさい。





…ただ


何やらいつもと違う視線を背中に感じる。

こいつはこいつなりに空気を読んでいるんだろうと気づかぬ振りをしてやった。






それが間違いだった。






「辛気臭イ顔シテドウシタノダ
ヨワヨワヘタレ王子ヨ…」





………。



真後ろからの鬱陶しさに輪をかけた声色、正直胸糞悪い。



「…あ？」


精一杯の嫌悪感を目と眉に込めた、が…





「コレやる！」



見てたのか見ていないのか、意に介さない様子でどさりと押し付けられた袋。

開けて開けてと無言で訴える江間の目に負けて、思わず中身を覗く。



「……お、」



出てきたのは防具がいくつかと、小さめで柄の長いハンマー。

ひゅんと一振りし、肩に担いでみる。

遠心力が心地良い。



江間から物を貰うのは癪だ。

癪だがこれは使える。






GT…




これでゴーストを甚振りたい衝動がむくりと鎌首を擡げた。

それが出てしまうともう他が見えない。




「丁度良い、これでGT行くか…




お前は着いてくるな、大コスモへ帰れ。」





何故礼も言わずGTへ行ってしまったのだろう。



どうかしてる。