4/11 春の眠りに

暁が来ないと言ったのは誰だ。


（まんじりともしない午前3時）

蜘蛛を孕んで何日経ても

死人嗅ぎよりきつい血の匂いは未だ部屋に　制服に　詠唱兵器に　肌に纏わりつく。



気の所為だなんてことは百も千も承知しているけれど

ここ数日まともにモノを食えていない事実は消しようが無い。



冷蔵庫から蜂蜜のレモン漬けを取り出し、蜂蜜をからめて口に放り込む。

甘いものが食えるから倒れるには至っていない。

まだ大丈夫、と言い聞かせるように呟いてベッドに浅く腰掛けた。



横から差し込む月の光が目に痛い。

太陽の光は影を作るから好きだけれど、
月の光は見たくないものを浮き上がらせる。




そうやってずっと目を逸らし続ければいい

弱い自分から

強くなれない自分から





嫌だ。

嫌なんだ。




中途半端に開いていたカーテンを乱暴に開け、
情けない顔を夜の明かりに晒す。



LDKの大きな窓ガラスに写る、同じ顔




生ぬるく、血腥い息を吐き掛けると
すぐにその顔は見えなくなった



少し気が和らぐ。



ぐ、と体を動かし
深呼吸をしながらゆっくりと手を床に着ける


そのまま膝を折りたたみ
やがて足先が頭のあった位置に伸びて




肩に力を込めて腕でバネがはじけるように
とん、と掌が床を離れる音

腰を中心に、くるりと頭を上向かせ
つま先から柔らかく着地



一連の動作を終え、またゆっくりと息を吸い、吐く。



治まらない胸の痛みと
締め付けられるような喉の感覚。



「………そうだ」




明日になったらGTに行こうと思った。

誰か一人、たった一人でいい。
こんな情けない顔を晒しても大丈夫な人を連れて。



紅い蝶を思い出す。
少しだけ気分が落ち着く。

黄色いツナギを思い出す。
却下。

緑の髪を思い出す。
楽しいけれど…これ以上心配をかけたくない。

黒紫の髪を思い出す。
あいつにはまだするべきことが、ある。今は駄目だ。



金色の髪、オレンジの瞳。
…駄目だ

隣に並んだら何を言うか分からないから