4/23 どうかしてる（2/2）

わからない

だってわからない。




嘘だって分かってるけれど。

「嬉しかったのはわかってるんだから、それで充分じゃないの。」




違う

違うよ。




優しくされたのが嬉しくて

でも



人の気持ちなんて直ぐに変わるから






あんなに大事に思っていても

人は弱いから。




眼を逸らされて

心を閉ざされて


今までの全部
無かったことになるくらいなら




欲しがらないほうが幸せになれる。





嬉しいのなんか気の迷いだよ　店長





…。



…。



…。





嘘だ



嘘だ…！








途端に

何事か叫んで階段を駆け上がる自分の体に気がついて





店長のヒールの音が聞こえる



何で追いかけてくるの？


何で優しくしてくれるの？




大丈夫なのに

大丈夫なのに




何度も

嘘つき、嘘つきと自分を罵りながら、ビルの階段を只管上る。




馬鹿なチキンレース。

それは直ぐに終わった。




……！！



べしゃ、と情けない音を立てて体が滑る。

段差にブーツの踵を引っ掛けて、前のめりに転んでしまったらしい。



ヒールの音が段々と近づいてくる。

アビリティも体力も底を尽きた体は起き上がることを嫌がり、

易々と店長に追いつかれてしまった。




ふわ、と温かいものに包まれる感触。

蝶じゃない。




「やーね、どの子も自分の中で悩んでばっかりで…！」




悩むって

悩むってそういうことなのに




自分で分からないことを

他人に話してどうなるっていうんだ





じゃあこれは何？




今頬を伝う

あたたかいものは何？




自分で手を伸ばして掴んだ

あたたかいものは何？