3/8 てのひら

  ぬいのようだと、思った。

新しいイグニッションカードが届いたのをいいことに、
連日連夜GTに入り浸っている。

テスト前の現実逃避といえばそうかもしれない。


米沢ではしゃいで倒れた宇気比を叱り付けたり、
真田と二人でクレセントファングばかり使って遊んだり。


少しずつ、楽しいとか嬉しいとか、そういう気持ちを思い出しているような気がする。



でも




心を閉ざしたぬいは





甦る、雨の日の。

思い出すのはいつも、敵を目の前にしている時。
首をぶんと振って集中する。


いつもなら、ゴーストの断末魔を聞くことでそれは振り払われる。


けれど




なぜか

ぬいがそこに居るような気がして。



調子が出ない。


ただでさえレベルが低いのに、そんなことで皆に迷惑をかけるわけに…





タタタタタタタタタ…！





…！！！！


集中が途切れた瞬間、アサルトメイデンの乱射をまともに喰らう。
アームブレードを支えに倒れるのを防いだその時、




居ないはずのぬいが　見えた。






…雪白？




一瞬だったけれど、確かに。

けれど確かめる暇も無く、ゴースト達は次から次へと。


それらを嬲るうち、いつものようにぬいの事を忘れ、
私はまた誤魔化しの享楽と共に踊った。



＝＝＝




何とか、トドのような熊のゴーストを下した帰り道。

さっきの感覚が気になり、雪白の顔を覗き込む。



いつもと同じ笑顔？




……いや。




小さな期待を胸の内で否定したその時、またぬいの瞳がちらつく。
それは占いの見立てが当たっている時の感覚に似ていた。




似て、いるのか。





似ているんだろうな






そう思ったら、右手が何時の間にか雪白の頭に伸びていた。



くしゃ、くしゃくしゃ。




「辛気臭い顔、するなよ。」



それしか云えない私はやはり臆病者だと思う。

微妙な顔で真田と一緒に帰った。




とりあえず、テストのことを考えない時間を持てたから良しとしよう。